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大阪家庭裁判所 昭和56年(家)2679号 審判 1982年12月22日

本籍 大阪府 住所 大阪市

申立人 谷藤政治

国籍 英国香港 住所 申立人に同じ

事件本人 チェン・トイキュー 外一名

主文

申立人が未成年者らを養子とすることを許可する。

理由

1  申立人は、主文同旨の審判を求め、申立の実情として、次のとおり申述した。

申立人は未成年者らの母カーエイと結婚したが、右未成年者らとも養子縁組した上一緒に暮したいので本申立に及ぶ。

2  当家庭裁判所家事調査官の調査報告書並に一件記録のその余の資料によると、次の事実が認められる。

(1)  事件本人の母カーエイは一九七四年来日、一度申立人の営む○○商事に勤めていた坂本博英と婚姻したが約二年程で右同人と離婚、その後申立人と一九七八年二月頃から恋愛関係となり、間もなく結婚話となり、その結果申立人は当時婚姻中の申立人の妻佐代子と同年七月二八日離婚し、その頃右カーエイと婚姻するに至つた。

(2)  そうして、その後申立人は右カーエイとの婚姻生活が安定するに至つたので、右カーエイの希望もあり右同女が香港の友人に預けていた事件本人ら二児を引取り養育し度いと思い、本件申立に至つた。

(3)  ところで、事件本人らは右同人らの母カーエイが香港において一九六九年同棲するに至つたチエン・ドットランとの間に非嫡の子としてそれぞれ出生したものであるが、右母カーエイが前述来日後は香港において右同女の友人周立波に預けられていたが、本年(一九八二年)一月二八日事件本人ら両名共来日、爾来申立人ら夫婦の許で監護養育され、現在肩書住所で一緒に暮し、○○○○○アカデミイに事件本人トイキユーは四年生に、同トイキは三年生として就学しており、右事件本人らは現在では申立人をパパと呼んで親しんでおり、右学校での成績もきわめて良好である。

(4)  申立人は○○○大学○○学部卒業後一時出版社に勤務したが、現在建築業に転じ株式会社○○○○および○○商事を経営、月収両者併せて三〇万円程得ている外、資産としては土地・マンション等計一億円相当の不動産を有している。

現在肩書住所のマンション2LDKに居住家賃月七万円程を支払つている。

事件本人らの母カーエイは現在では日本語は日常会話ではなんら不自由がない位達者になつており、申立人は右カーエイとの婚姻について三年目の現在安定していることを見極めた上で本件申立に至つたものである。

2  以上の事実によると、先ず申立人は日本人であるが、事件本人ら両名はいずれも国籍は英国であることが認められ、本件は謂ゆる渉外事件であるが、申立人の住所は大阪市内にあることが認められるので、本件申立については当裁判所においてその管轄権を有することは明らかである。

次に養子縁組については法例一九条一項によれば各当事者の本国法によるべきところ、事件本人らは香港で出生し、来日するまで同地に居住していたことが認められるので、その本源住所は香港であると解せられるが、右香港では養子縁組に関して香港法において定めを有するので、この場合右事件本人らの本源住所又は最後の住所を基準として法例二七条三項によりその所属法令を定めるべきものと解され、結局事件本人らの属人法としては右香港法が適用されるべきものと解される。

然るところ、右香港法においては養父母が常居所を有する謂ゆる法廷地法による養子縁組の結果を承認していると解し得るところ、前記のとおり養父たるべき申立人の住所は肩書地にあることは明らかなので、結局本件申立について双方につきわが民法のみが適用されることになる。

ところで先に認定した事実によると、事件本人らは申立人の妻であるカーエイの娘であつて、従つて民法七九八条但書が適用され許可審判は不要と解し得る。

唯然し、右同条の目的からして右同条但書の場合に審判を禁じている趣旨とは解されず、他面本件は国際間の養子縁組であり、現に生活関係も最近までその母国においてなされ生活環境・習俗・言語等を異にしていた間の親子としての結びつきに関する例であるので、子の福祉の観点から家庭裁判所の後見的役割と、その機能から、申立があつた限りでその適否に関し判断を示すことは意義のないことではなく、少なくともこれが審判を拒否する理由はないと解される。

そうして先に認定の事実によれば、事件本人らは本年二月頃来日爾来申立人および事件本人らの母カーエイ夫婦の許で生活して来ており、この間事件本人らは既に申立人を「パパ」と呼ぶなど親和性には格別問題はなく、母であるカーエイの日本語が日常会話には支障がないまでに上達しておることが認められるので、当面の言語上の問題は、右母による媒介が期待されるので、その意思疎通にも支障はなく、そうして現に、事件本人らの学業はいずれも良好であり、申立人の許における生活に安定しており、そうして、本件縁組は申立人の妻であり、事件本人らの生母たるカーエイの希望でもあることが認められるのである。

以上そうして見ると、本件縁組は事件本人らの福祉のためこれを許可するを相当と認められるのである。

3  よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 丸藤道夫)

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